インターネット上のなりすまし被害の対策ー最高裁令和6年12月23日判決を解説

インターネットのなりすまし被害が深刻になっています。

これにたいして、なりすましを行った人物についての発信者情報開示などの対策が考えられます。

このようななりすまし被害対策に関して、最近興味深い判決が出たので紹介します。

【事件の概要】
インスタグラムで,なりすましの被害を受け,自身の性的な投稿をされた人(原告)が,なりすましを行った人物の特定のために,経由プロバイダ(被告)に対して,なりすましを行った人物のIPアドレスに関して,なりすましを行った人物の氏名,住所,電話番号,メールアドレスといった発信者情報の開示を求める事件です。
なお,成りすました人物はすべて同一人物であることが判明しています。また,なりすました人物による投稿は令和3年4月29日に行われ,この投稿以後の成りすました人物によるログインは,令和3年5月20日から令和3年6月13日まで8回の行い行われています。
原審では,なりすました人物による8回のログイン全てについて発信者情報開示が認められましたが,これについて,プロバイダ側から、不服であるとして,上告されました。

【最高裁の判決】
最高裁は,本件各ログインがプロバイダ責任法5条2項の「侵害関連通信」に該当するかについて,以下のように判断しました。
原稿のプロバイダ責任制限法5条2項の「侵害関連通信」については,発信者情報の開示ができるところ,この侵害関連通信に該当するためには,プロバイダ責任制限法施行規則5条柱書の「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当しなければなりません。
そのうえで,ログイン通信それ自体については権利侵害性を有しないこと,しかし,ログイン通信について一切発信者情報の開示を認めないと,被害者の救済が不十分になることから,通信者等のプライバシー,表現の自由及び通信の秘密との均衡をふまえて開示されるべきであるとして,「施行規則5条柱書が侵害関連通信を『侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの』としたのは,同条各号に掲げる符号の電気通信による送信それぞれについて,開示される情報が侵害情報の発信者を特定するために必要な限度のものとなるように,個々のログイン通信等御侵害情報の送信との関連性の程度と当該ログイン通信等に係る情報の開示を求める必要性とを勘案して侵害関連通信に当たる者を限定すべきことを規定したものであると解される。」と法解釈しました。そのため,時間的近接性以外に個々のログイン通信と侵害情報の送信との関連性の程度を示す事情が明らかでない場合については,侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当し,それ以外のログイン通信については,あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎づける事情があるときにこれに当たり得ると基準を示しています。
その上で,権利侵害投稿が行われた後の21日後にされた本件ログインが,最も時間的に近接するためこの一つのルグイン情報について,「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当すると判断しました。
それ以外の7件のログインについては,あえて開示すべき必要性が見つからないため,「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たらないと判断しました。
そのため,最高裁は,発信者情報開示請求のあった8回のログインのうち1回についてログイン情報の開示を認め,それ以外のログイン情報については,開示を認めませんでした。

【解説】
このように,名誉毀損の投稿そのものではなく,なりすまし被害についての発信者情報開示を求める場合,ログイン情報が権利侵害投稿を行った人を特定するカギになってきます。
しかし,ログイン情報というのは,名誉毀損などの権利侵害情報が含まれているものではないので,普通は開示することができません。しかし,なりすまし被害に関する場合に限っては,成りすました人物による権利侵害投稿と関連性がある範囲で開示が認められます。
この権利侵害投稿と関連性があるといっても,全てのログイン情報を開示すると弊害が大きいことから,必要な範囲でのみ開示を認めるということになります。
そのため,今回の最高裁の事例の場合,権利侵害投稿から最も近接した時間のログイン情報だけが開示されました。
ただし,今回の最高裁判所の事例の場合,なりすましを行っている人は一人で,複数の人によるものではなかったので,時間的に最も近接した時点でのログイン情報の開示が認められたという事情があります。
そのため,なりすましを行っている者が複数人である場合,時間的に最も近接した時点以外のログイン情報の開示が認められる可能性があります。
そのため,なりすまし被害があった場合には,ログイン情報の開示請求を行い,なりすましによる権利侵害表現から最も近接した日時のログイン情報の開示を求める形で発信者情報開示請求を行うことになります。

なりすまし被害にお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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