【事例】
Aさんは,イベントのチケットを大量に購入して販売するということを長年繰り返している人です。
ある日,Aさんは,ミュージシャンαのコンサートのチケットを正規の販売会社からインターネットで自宅から購入し,販売価格より高額でBさんに販売しました。
このαのコンサートのチケットは,転売してはならないとの特約が付いており,日時・場所,座席指定がされており,購入者についての連絡先やメールアドレスを購入の際に登録する必要があったものでした。
以上を前提として,
①どのような犯罪が成立するか,
②犯罪が成立するとして,どのくらいの刑罰が予定されているか
について解説していきます。
成立する犯罪について
・詐欺罪
まず,詐欺罪の成立が考えられます。
刑法246条2項の詐欺罪が成立するためには,人を欺いて「財産上の利益を得」たということが言えなければなりません。
不正転売について,詐欺罪になると考えられるのは,転売する意思を秘して,チケット販売者に転売してはならないチケットの購入の意思表示をしているためです。
この詐欺罪に該当すると判断された例として,神戸地方裁判所平成29年9月22日判決の例があります。
この事件では,ミュージシャンのライブコンサートの転売が禁止されている電子チケットを転売目的で注文し,チケット販売会社の社員に転売目的がないとの誤信させ,ライブコンサートの電子チケットの送信を受けたという事件です。
この事件について裁判所は,転売目的を秘することについて,「その性質上販売数が限定されているものであり,営利目的転売を企図した購入が横行すると,真にコンサートに参加したい一般客の機会が奪われ,又は一般客が適正価格を著しく超過した暴利価格を支払うことを余儀なくされ,最終的に音楽業界全体に大きな不利益が生じる」ため,財産上の利益の移転のための重要な事項に当たるため,転売目的を秘して注文した行為を人を欺く行為に該当すると判断しています。
そのため,チケットの転売目的があるのか,転売目的があるとして,転売目的があるかどうかを見分ける仕組みがあり,その仕組みを欺いたと言えるかどうかが問題となります。
・迷惑防止条例(ダフ屋規制)
次に,都道府県の迷惑防止条例違反が考えられます。
迷惑防止条例上,ダフ屋規制がされており,迷惑防止条例上のダフ屋行為に該当する場合,迷惑防止条例違反を理由に処罰されます。
例えば,東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」2条1項によれば,「何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。」と規定されています。
つまり,コンサートの観覧券をチケット販売店で転売目的で購入したことを理由に処罰されるというものです。
しかし,この規定の問題点としては,「公共の場所」で買わなければならないことから,自宅でインターネットでチケットを購入する行為を処罰することができません。そのため,インターネットを用いたチケットの高額転売に対して,対処できない規定になっています。
・チケット不正転売禁止法
チケットの転売そのものについては、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(チケット不正転売禁止法)による処罰ということも考えられます。
チケット不正転売禁止法上販売が規制される「特定興行入場券」というのは,チケット不正転売防止法2条3項によれば,以下のように定義されています。
「一 興行主等(興行主(興行の主催者をいう。以下この条及び第五条第二項において同じ。)又は興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者をいう。以下同じ。)が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。
二 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(興行主等が当該興行を行う場所に入場することができることとした者をいう。次号及び第五条第一項において同じ。)又は座席が指定されたものであること。
三 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。
イ 入場資格者が指定された興行入場券 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。)その他の連絡先(ロにおいて単に「連絡先」という。)
ロ 座席が指定された興行入場券(イに掲げるものを除く。) 購入者の氏名及び連絡先」
簡単に言うと,①正規のチケット販売業者が販売する紙のチケットかQRコードであること,②入場資格者の氏名か,指定席で購入されるもの,③入場者の氏名,電話番号,メールアドレスを確認する措置が購入の際にとられているチケットである必要があります。
また,チケット不正転売禁止法上の「不正転売」というのは,チケット不正転売防止法2条4項によれば,「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの」を指します。
つまり,正規のリセール業者ではないにもかかわらず,チケットを販売価格よりも高く販売する行為を規制対象としています。
このように,チケット不正転売行為を定義した上で,チケット不正転売禁止法3条,9条により,不正転売を行った場合に処罰することを規定しています。
このチケット不正転売禁止法は3条で不正転売行為を禁止しているだけではなく,4条で不正転売されたチケットを購入する行為についても規制されています。
そのため,購入者についても,チケット不正転売禁止法により処罰されます。
見込まれる刑罰
詐欺罪の法定刑は,10年以下の懲役が予定されており
迷惑防止条例違反の場合,6月以下又は,50万円以下の罰金が予定されており,
チケット不正転売禁止法違反の場合,1年以下の懲役又は,100万円以下の罰金が予定されています。
実際の量刑傾向としては,前科前歴のない人が詐欺罪で有罪になるとしても,執行猶予付きの有罪判決になっている例が多いです。
迷惑防止条例違反については,罰金で略式起訴され有罪になる例が多いです。
チケット不正転売防止法での例としては,ほとんどが罰金刑で有罪になっているようです。
弁護活動
そのため,弁護活動としては,詐欺罪での起訴を避ける方向で検討することになります。
事例についての検討
事例について,Aさんは,少なくとも,正規の販売会社を通じてチケットを購入していること,指定席での観覧が予定されていること,本人確認の措置が購入の際にとられていること,正規の価格より高額でBさんに販売していることから,チケット不正転売防止法で刑事処分を受けることが想定されます。
詐欺罪による処分については,Aさんが,転売目的を秘していたか,チケット購入の際に不正転売を防止できるような仕組みになっていたかによって判断されます。
また,Bさんについては,正規のチケット代と異なる規制対象となるチケットを購入していることから,チケット不正転売防止法による刑事処分が想定されます。
まとめ
このように、チケットの転売により刑事処分を受ける可能性があります。
チケットの転売について不安な方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。