飲食店内で容器を舐めるような迷惑行為の様子を撮影してネットに上げるといった事件が続発し、社会問題となりました。このような迷惑行為の存在自体お店のイメージを下げることになりますが、SNSで拡散されることで、お店のマイナスイメージがさらに広がり、社会的信用を失うことになりかねません。さらに、自社の従業員やアルバイトが、調理に使う具材にいたずらをするなどの迷惑行為の様子を撮影してネットに上げる、いわゆるバイトテロをされてしまえば、企業の社会的信用もさらに下がりかねません。
迷惑行為への対応
投稿者の特定、投稿の削除
まずは投稿者を特定し、問題の投稿を削除し、画像が広がるのを防ぐ必要があります。
自社の従業員やアルバイトがネットに挙げたのであれば、その者に指示をして削除させることができます。
しかし、来店客など自分のお店や会社に所属していない者が行った場合や一度ネットに挙げたものを他の者が転載してしまうと、そのようなことは困難になります。この場合、名誉毀損の投稿をされたとして、SNSの運営会社などに、発信者情報の開示を求めたり、削除を求めることが考えられます。任意で応じなかったときは、裁判手続きにより、迅速に行うことができます。
投稿者への対応
迷惑行為をSNSに挙げた者に対しては、民事責任の追及として、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます(民法第709条)。
投稿者が未成年者(18歳に満たない者。第4条)で自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかった場合、監督義務者である保護者に請求することになります(民法第712条・第714条第1項)。ただし、これは12歳前後までの年齢で問題になることであり、高校生などアルバイトをするような年齢では自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとされることはまずありません。監督義務者に請求できない場合、本人に請求することになります。
損害については、不法行為と因果関係があるものについて認められます。
名誉毀損や侮辱を内容とする投稿により社会的評価が下がることが認められますが、損害賠償額は多くはありません。
容器を舐められたといった実害があるのであれば、店内のすべての容器を取り換えたり、消毒するなどの対策をする費用が生じます。このような、加害者の行為により生じた費用については損害といえ、損害賠償請求をすることが可能です。
迷惑行為を内容とする投稿では、これにより株価が下がり、企業が大きな打撃を受けたなど主張されますが、企業の株価は市場の状況など様々な要素の影響を受けます。加害者の行為が原因で株価が下がりそれによりどれだけの損害が生じたかを証明するのは難しいでしょう。
迷惑行為に対して成立する犯罪により追及する
迷惑行為が犯罪に該当する場合、これを犯罪として追及する方法があります。
名誉毀損罪、侮辱罪
公然と事実を摘示して人の名誉を棄損、すなわち人の社会的評価を低下させれば、名誉棄損罪(刑法第230条)が成立します。事実を適示しなくても、公然と人を侮辱すれば、侮辱罪(刑法第231条)が成立します。侮辱は、人の社会的評価を低下させるような内容を発することです。容器を舐める様子をSNSに挙げるようなことは、お店の衛生管理ができていない様子を社会に知らしめることになりますので、お店の社会的評価を低下させ名誉毀損となるでしょう。もっとも、自分たちで迷惑行為を行い、この様子を撮影してSNSに挙げる場合は自分達で名誉毀損行為を行っているので問題になりませんが、ネットで出回っている画像を他人が転載するような場合は、社会に警鐘を鳴らしているとみる余地もあるため、公共性や公益目的があるという可能性があり、その内容が真実であれば、犯罪とはなりません(刑法第230条の2)。
業務妨害罪
バイトテロのような迷惑行為については、偽計業務妨害罪(刑法第233条)又は威力業務妨害罪(刑法第234条)が成立する可能性があります。
威力業務妨害罪の「威力を用いて」とは、人の意思を制圧する勢力を用いることをいいます。偽計業務妨害罪の「偽計を用いて」とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑したり、計略や策略を用いるなど、「威力」以外の不正な手段を言うとされています。「威力」と「偽計」のいずれに該当するかを判断するにあたっては、行為の態様又は結果のいずれかが目に見えるものであれば「威力」に、目に見えないものであれば「偽計」になるとするのが一般的です。迷惑行為の様子をネットに上げることで、多くの人の目にさらされ、店舗内でそのような行為が行われているとか、自分が使った容器もそのようにされているのではないかと多くの人が不安に陥り意思が制圧されるといえます。したがって、「威力を用いて」に該当すると考えられます。
そして、迷惑行為がネットに上げられると、ネットで情報がさらに拡散し、利用者が不安に思って店に来なくなる可能性があります。また、調味料の容器を舐められたのであれば店内のすべての容器を入れ替えなければならないなど、迷惑行為に関係する備品を撤去するなどの対応が必要となり、通常の業務さえもできなくなります。これは業務の円滑かつ平穏な遂行そのものを妨害する行為であり、「業務を妨害した」といえます。
器物損壊罪
迷惑行為に当たり、お店に置いてある容器に手を付けるようなことをすれば、器物損壊罪(刑法第261条)が成立する可能性があります。
「他人の物を損壊」とは、物の効用を害することとされています。飲食店の容器を舐めるなどすれば、その容器はもはや客に提供することができなくなります。これは物の効用を害するに当たるといえ、器物損壊罪に該当する可能性があります。
まとめ
このように、SNSでの迷惑行為については、個人であれ企業であれ、様々な事情を考慮して対応していく必要があります。
SNSでの迷惑行為にお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
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