インターネット上で弁護士の懲戒請求を呼びかけられ、これに応じて懲戒請求をしたという事案が見られます。このような懲戒請求が全く根拠なく行われた場合、その弁護士に無意味な対応を強いることになり、弁護士の業務を妨害することになります。このような場合、弁護士から逆に損害賠償の訴えや被害届を出されることになりかねません。
ここでは、不祥事のニュースが根拠のない懲戒請求の呼びかけに応じてしまった場合の責任について解説します。
【事例】
Aさんは,甲というブログを読んでいたところ,「L弁護士は中国共産党のスパイであり,弁護士として活動することでスパイ活動を行うとともに,得た資金を中国共産党に送金しています。日本の国益のためにもL弁護士を懲戒しよう。」「皆さんの何千,何万の懲戒請求が日本を救います。」「懲戒請求書のひな型はこちらです。」と書かれていたことから,日本を守らないといけないと思い,甲のブログに応じてL弁護士に対して懲戒請求をしました。
このように,懲戒請求を行ったところ,L弁護士から訴状が届き,損害賠償請求がされてしまいました。
このような場合に,どのような責任を負うのかについて解説していきます。
不当な懲戒請求を行った場合の責任
弁護士に対して,根拠のない懲戒請求を行った場合,懲戒請求を行った人は不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。
根拠のない懲戒請求であるかどうかというのは,最高裁平成19年4月24日判決によれば,「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められる」場合でなければならないとされています。
というのも,このような根拠のない請求によって,弁護士の信用が侵害されるおそれがあり,弁護士会に対して根拠のない請求であっても弁明を余儀なくされることから懲戒請求を受けた弁護士の円滑な業務遂行や名誉権が侵害されることになるためです。
懲戒請求を行った人をどのように特定するのか
弁護士に対して懲戒請求を行った場合,氏名,住所を書くことになっており,懲戒請求書がそのまま弁護士に届く関係から,懲戒請求書を確認することで,懲戒請求を行った人の名前と住所を特定することになります。
このように,発信者情報開示請求を行うこと無く,裁判を起こすことができますので,懲戒請求をされた弁護士にとっては,懲戒請求者を特定することは困難ではありません。
損害賠償請求を受けた場合どう対応したらいいのか
損害賠償請求を受けた場合,懲戒請求には根拠があると主張して,損害賠償請求を認めないよう動いていくことが考えられます。
懲戒請求に根拠があるといっても,「○○弁護士はスパイだ」とブログに書かれていたとか,「○○弁護士が無罪判決を得たのはワイロを裁判官に渡したかららしい」という推測がかかれていたというのでは,十分な根拠になり得ません。
仮に十分な根拠があるとすれば,きちんと調査をして,本当にスパイ活動をしていた証拠となる書類や本当にわいろを渡したということについての証拠があれば,十分な根拠があるという場合でなければならないと考えられます。そして,このような証拠を見つけてくるというのは困難,あるいは不可能だと思います。
そのため,迅速に事件を終わらせるために示談をするというのが良い選択になると考えられます。
示談に応じなかった場合はどうなるのか
示談に応じなかった場合には,裁判所での裁判に出廷する必要が出てくると思われます。
裁判所で裁判が行われた場合,大体,損害賠償請求が認められます。
その場合の賠償額は約3万円程度ですが,裁判が行われるのが遠方になることが考えられる上,遠方からわざわざ出頭することになるため,時間も労力もかかります。
そのため,3万円では済まない程度の出費を強いられることになります。
このように,責任を取ることになると考えられますので,弁護士に対する根拠のない懲戒請求を行うことはやめましょう。
特に,現在日弁連としては,このような根拠のない懲戒請求を弁護士に対する業務妨害として警戒しています。
根拠のない懲戒請求をしてしまったかもしれないと不安な方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
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