※2025年6月1日より、改正刑法に基づき懲役刑および禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。当ページでは法改正に基づき「拘禁刑」と表記していますが、旧制度や過去の事件に関連する場合は「懲役」「禁錮」の表現も含まれます。
偽計業務妨害罪
刑法233条の偽計業務妨害罪は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した」場合に成立します。
「虚偽の風説の流布」とは、客観的な真実に反するうわさや情報を、不特定または多数の人に伝播させることをいいます。
また、「偽計」とは、人を欺いたり、人の錯誤や不知を利用したりする行為をいいます。
したがって、インターネット上で虚偽の情報を流す行為であっても、単に情報が嘘であるというだけで偽計業務妨害罪が成立するわけではなく、その情報を流す行為によって他人の業務を妨害したことが必要です。
犯行予告と偽計業務妨害罪
インターネット上で問題となる偽計業務妨害罪の例として、SNSや電子掲示板に虚偽の犯罪予告を書き込む行為があります。
例えば、「明日、○○駅で通行人をナイフで刺して殺す」など、実際には犯罪を行う意思がないにもかかわらず、虚偽の犯行予告を投稿した場合です。
このような事案について、東京高裁平成21年3月12日判決(高刑集62巻1号21頁)があります。
この事件では、被告人がインターネット掲示板に、JR土浦駅において無差別殺人を実行する旨の虚偽の予告を書き込みました。これを閲覧した者から警察に通報があり、警察署職員らが土浦駅構内やその周辺に出動して警戒するなどの対応を余儀なくされました。その結果、予告がなければ遂行されたはずの警ら、立番その他の業務の遂行が困難となりました。(ndlsearch.ndl.go.jp)
東京高裁は、警察が犯行予告の虚偽であることを直ちに見抜けない限り、これに対応するための出動や警戒を余儀なくされ、その結果、本来遂行されるはずだった警察の業務が妨害されるとして、偽計業務妨害罪の成立を認めました。
このように、インターネット上の虚偽の犯行予告によって、警察などに不要な対応をさせ、本来の業務の遂行を困難にした場合には、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
SNSでの活動と偽計業務妨害罪
SNSへの投稿によって偽計業務妨害罪が成立した事例もあります。
東京高裁令和3年8月31日判決では、被告人が自身のTwitterに「私はコロナだ」などと投稿した後、東京都内の飲食店で、店のロゴが付いたグラスを含む店内の様子を撮影し、「濃厚接触の会」などと投稿しました。
これらの投稿によって、実際には感染者が飲食店で飲食しているかのような誤解を生じさせ、飲食店側が店内の消毒などの対応を余儀なくされました。東京高裁は、こうした行為によって飲食店の業務が妨害されたとして、偽計業務妨害罪の成立を認めました。なお、同事件では罰金30万円の一審判決が維持されています。(bengo4.com)
このように、SNS上の投稿であっても、虚偽の情報によって店舗などに不要な対応をさせ、業務を妨害した場合には、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
一方、飲食店などに対して「私はコロナだ」などと直接告げて業務を妨害した事案では、偽計業務妨害罪ではなく、威力業務妨害罪の成立が問題となることもあります。具体的な行為態様によって適用される犯罪が異なります。
予想される処分や刑罰
インターネット上の投稿者が特定されれば、偽計業務妨害罪の被疑者として捜査を受け、逮捕される可能性があります。
もっとも、偽計業務妨害罪に該当する可能性があるからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕の必要性などを含め、事件の具体的な事情を踏まえて判断されます。
また、捜査機関は、投稿内容や投稿日時、通信履歴、被害を受けた側の対応状況などの証拠を収集することがあります。そのため、インターネット上の投稿であっても、匿名だから特定されないとは限りません。
弁護士に依頼した場合には、事案に応じて、逮捕・勾留の回避に向けた活動、被害者側との示談交渉、捜査機関への説明、不起訴処分に向けた弁護活動などを行うことが考えられます。
刑法233条の偽計業務妨害罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
実際の刑事処分は、犯行の態様、業務への影響、被害の程度、犯行後の対応、前科・前歴などの事情を総合的に考慮して決まります。比較的軽微な事案で罰金刑となる場合もありますが、業務への影響が大きい場合や犯行態様が悪質な場合などには、より重い処分となる可能性もあります。
犯罪をしないために注意すること
SNSやインターネット掲示板に投稿する際には、虚偽の情報によって他人や企業、店舗、行政機関などに対応を強いる内容になっていないか注意する必要があります。
特に、実際には存在しない犯罪や事故、感染症などについて虚偽の情報を投稿し、その情報によって店舗や警察などが対応を余儀なくされた場合には、偽計業務妨害罪に問われる可能性があります。
また、迷惑行為を撮影してSNSなどに投稿する場合にも、投稿内容や実際の行為によっては、偽計業務妨害罪だけでなく、威力業務妨害罪、器物損壊罪、窃盗罪など、別の犯罪が成立する可能性があります。
