虚偽の風説流布による業務妨害

※2025年6月1日より、改正刑法に基づき懲役刑および禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。当ページでは法改正に基づき「拘禁刑」と表記していますが、旧制度や過去の事件に関連する場合は「懲役」「禁錮」の表現も含まれます。

虚偽の風説流布による偽計業務妨害罪

刑法233条は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した」場合を処罰しています。

「虚偽の風説を流布する」とは、客観的な真実に反する事実を、不特定又は多数の人に伝播させることをいいます。

もっとも、虚偽の事実を広めたからといって、直ちに偽計業務妨害罪が成立するわけではありません。実際に人の業務を妨害したことなど、刑法233条の要件を満たす必要があります。

例えば、名古屋高裁令和3年12月14日判決では、ユーチューバーである被告人が、洋服店で購入したTシャツについて偽ブランド品であるとの虚偽の事実を述べて返品を要求したほか、その様子を撮影してYouTubeに投稿しました。

この事件では、店舗前で返品を要求して店舗に対応を余儀なくさせた行為については威力業務妨害が成立し、YouTubeに動画を投稿して、店舗が偽ブランド品を販売しているかのような虚偽の事実を広めた行為については、信用毀損罪が成立したとされています。

したがって、店舗の商品やサービスについて、真実に反する内容を広める行為は、内容や方法によっては信用毀損罪や偽計業務妨害罪などの犯罪に該当する可能性があります。

信用毀損罪について

刑法233条は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて「人の信用を毀損」した場合も処罰しています。

ここでいう「信用」は、単に人としての一般的な社会的評価を意味するものではなく、経済的な側面における社会的評価を意味します。

最高裁平成15年3月11日判決は、刑法233条の「信用」について、単に人の支払能力や支払意思に対する社会的な信頼に限定されるものではなく、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれると判断しました。

この事件では、コンビニエンスストアで購入したオレンジジュースに家庭用洗剤を注入した上で、警察官に対し、そのコンビニエンスストアで購入したオレンジジュースに異物が混入していたという虚偽の申告をしました。

その結果、報道機関によって、そのコンビニエンスストアで異物の混入したオレンジジュースが陳列・販売されていたかのように報道されました。

最高裁は、このような行為について、商品の品質に対する社会的な信頼も刑法233条の「信用」に含まれるとして、信用毀損罪の成立を認めました。

したがって、企業について「粗悪な商品を販売している」「衛生管理がされていない」など、客観的事実に反する情報を広めた場合、その内容や方法によっては信用毀損罪が成立する可能性があります。

予想される刑罰

信用毀損罪及び偽計業務妨害罪の法定刑は、いずれも3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。

事案によっては、捜査の結果、逮捕される可能性もあります。ただし、犯罪の成立が疑われるからといって必ず逮捕されるわけではなく、逮捕の必要性などを踏まえて判断されます。

実際の処分や量刑については、虚偽の内容、投稿や行為の態様、被害の程度、犯行の動機、被害者への謝罪・弁償、示談の成立、前科・前歴など、さまざまな事情が考慮されます。

そのため、「初犯なら罰金になる」「被害が大きければ執行猶予付きの拘禁刑になる」などと一律に判断することはできません。

被害者との示談が成立した場合には、刑事処分や量刑を判断する上で考慮される事情の一つとなります。示談金についても、法律上の一律の金額や「割増し」の基準があるわけではなく、実際に生じた損害、投稿の内容・範囲、削除の有無、被害者の処罰感情などを踏まえて個別に決まります。

損害賠償請求

偽計業務妨害罪や信用毀損罪に該当する行為をした場合、刑事責任とは別に、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。

例えば、虚偽の情報によって店舗や企業の営業に支障が生じたり、商品の回収、調査、広告対応などの費用が発生したり、売上の減少などの損害が生じたりした場合には、その行為との因果関係が認められる範囲で損害賠償を請求される可能性があります。

ただし、「信用毀損罪が成立したから莫大な損害賠償が認められる」とは限りません。民事上の損害賠償では、具体的な損害の発生や、その行為との因果関係などを立証する必要があります。

そのため、企業に対する虚偽情報の流布では、刑事責任だけでなく、どのような損害が実際に発生したのかという点についても注意する必要があります。

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