著作権法違反の罪(著作権法119条1項)
著作権法119条1項によれば、「著作権を侵害した」場合に著作権法違反の犯罪が成立することが規定されています。
分かりやすい事例としては、複製権(著作権法21条)という著作権を侵害する場合としては、会社の社員が海賊版の販売目的で本をコピーした場合が挙げられます。
この場合、本という著作物を複製しているため著作権を侵害していると言えます。
著作権の中には、公衆送信権があります。
この公衆送信権とは、著作権法23条1項の「公衆送信を行う権利」のことを指します。この「公衆送信」とは、著作権法2条1項7号の2に「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと」を指します。
そのため、インターネットにアップロードして、著作物を閲覧可能な状態にした場合、この公衆送信権を侵害する場合に当たると考えられます。
組織的犯罪処罰法
違法漫画サイトは、組織的な犯罪による収益を上げることがあるため、組織的犯罪処罰法の適用が問題になる事例となることがあります。
例えば、組織的犯罪処罰法10条1項によれば、「犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益の隠匿をした者は、10年以下の懲役若しくは、500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定されています。
この懲役と罰金だけでなく、組織的犯罪処罰法では、犯罪収益の任意的没収(組織的犯罪処罰法13条1項各号)と没収できなかった財産の追徴(組織的犯罪処罰法16条1項)が規定されています。そのため、違法漫画サイトを立ち上げて収益を上げた場合、組織的犯罪処罰法による没収、追徴をされることが考えられます。
違法コンテンツ共有サイトが広告料などを得ている場合、この組織的犯罪処罰法により処罰することが考えられます。
漫画村事件
著名な海賊版の漫画アップロードサイトである漫画村について問題になった例として、福岡地裁令和3年6月2日判決(LEXDB25590118)があります。
この事件で問題となった行為は、東京都のパソコンから、場所不詳のサーバーコンピュータの記録装置に保存し、インターネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にした行為(簡単に言えば、東京都から、世界のどこかにあるインターネットに接続されたパソコンに漫画の画像データをアップロードして、誰でも見ることのできる状態にしたということです。)と、漫画村に貼られていたアフィリエイト広告の広告料をセーシェル諸島共和国国籍の法人名義で日本ではない海外の銀行口座に送金させ、犯罪収益を隠匿したことです。
ただし、この事件で問題になった漫画村のサイトで閲覧可能にした行為は、別のサーバにある情報についてのリンクを貼り、そのリンクに応じて、その別のサーバの情報を漫画村で画像として見ることができるようにしているに過ぎないと主張し、被告人の行為でないこと、リンクを張ったに過ぎないから公衆送信し得る状態にしていないと主張しました。
また、組織的犯罪処罰法違反についても、アフィリエイト広告の報酬は、著作権侵害を行ったことによって得られた報酬ではないこと、犯罪収益の隠匿、仮装を行っていないことを主張しました。
この主張に対して裁判所は、被告人が、関係者と行っていた漫画の情報のアップロードのためのやり取りの状況と漫画村に漫画がアップロードされた時間から、被告人がアップロードを行ったと認定しました。
また、「漫画村のサーバは、インターネット回線に接続し、その記録媒体に記録された漫画の画像データや、第三者サーバから送信された漫画等の画像データを、公衆からの求めに応じ自動的に送信するものであるから、自動公衆送信に該当する。」などと判断し、公衆送信権侵害が成立すると判断しました。
そのため、著作権法違反の罪が成立すると判断しました。
また、組織的犯罪処罰法の部分については、犯罪収益「により得た」と言えるか否かは、「財産の取得の趣旨及び状況を踏まえ、財産の取得と犯罪行為との結びつき等の点から判断すべきである。」と判断の観点を示して、確かにアフィリエイト広告の報酬は、著作権等を侵害して得られた対価ではないと認めたうえで、広告の価値は、閲覧者が漫画村にアクセスし、その掲示された広告を見ることによって生じること、閲覧者が漫画村にアクセスする動機が、漫画を無料で閲覧することにあることからすると、著作権侵害行為と、アフィリエイト広告の報酬を取得した行為は、犯罪行為との結びつきが強いこと、被告人自身も、無料の漫画見放題サイトに広告を貼ることによって収益を得ることを考えていたとの事情を考慮して、被告人の著作権侵害行為と密接不可分の関係にあるとし、「犯罪行為により得た財産」に該当すると判断しました。
また、セーシェル諸島の法人名義の銀行へのアフィリエイト広告の報酬の振込については、漫画村の運営主体と気づかれない法人名義になっていること、漫画村側でも運営主体について明らかにしていないこと、秘匿性の高い海外の銀行口座に送金していること、被告人の下にアフィリエイト報酬を得る間に第三者の口座を経ていることなどの事情から、犯罪収益であるアフィリエイト報酬の所在を不明にするものであると認定して、犯罪収益等の隠匿に当たると認定しています。
このように、漫画村事件では、著作権法違反だけでなく、組織的犯罪処罰法の事実も認定された上で、懲役3年及び罰金1,000万円の実刑に処し、6,257万1,336円の追徴を命じました。
違法漫画アップロードサイトを立ち上げた場合の刑罰
漫画村のケースは非常に深刻な例で、立ち上げた人物は、3年6月の実刑と1,000万円の罰金、数千万円もの金銭の追徴を命じられています。
違法漫画アップロードサイトが問題になった他の事件でも、数年間の実刑が命じられています。
そのため、もし、違法漫画アップロードサイトを立ち上げたら、このように重い刑罰が下ることは覚悟しなければならないでしょう。
違法漫画アップロードサイトを立ち上げた場合の民事的責任
漫画村のケースでは、漫画村の運営者や、漫画村の法人に民事責任の追及がされているようです。漫画村による漫画家や出版社への被害額は3,200億円と言われていますので、どの程度認められるかは今後の動向次第のようです。
また、漫画村に関わった、広告会社については、漫画村による著作権侵害を幇助したとして、1,100万円の損害賠償責任を一人の漫画家に対して負うことになりました(知財高裁令和4年6月29日判決(LEXDB25572232))。
そのため、広告会社としても、違法漫画アップロードサイトに広告をつけないよう対策が必要であるということができます。