
マッチングアプリや出会い系サイトは、いまではごく普通の出会い方のひとつになりました。その一方で、トラブルとなっているのが「独身偽装」と「ロマンス詐欺」の問題です。今回は、この2つについて、刑事・民事の両面から整理してみたいと思います。
1 「独身偽装」──既婚者なのに独身のふりをしていた
民事:慰謝料請求ができる可能性があります
本当は他の人と結婚しているのに、そのことを隠して交際し、性的な関係を持った場合、だまされた側は「貞操権(性的自由)侵害」を理由に、不法行為に基づく慰謝料を請求できる可能性があります(民法709条)。
最高裁も、妻子があることを隠して関係を持った男性に対して、女性からの慰謝料請求を認めた例があります(最判昭和44年9月26日民集23巻9号1727頁)。
ただ、金額はそれほど高額にはなりにくく、実務上は数十万円から100万円程度に収まることが多い印象です。交際期間の長さ、妊娠や中絶の有無、嘘のつき方の悪質さなど、事案によって認められる金額はかなり変わると思われます。
そして、実はもうひとつ気をつけていただきたいのが、逆に独身偽装の被害者が請求される側になるリスクです。
相手の配偶者から「不貞行為だ」として慰謝料を請求されるケースは、決して珍しくありません。もっとも、相手が既婚者だと知らず、知らなかったことに落ち度がなければ、故意も過失もないため責任は負いません。この場合、「本当に知らなかった」ことを裏づける証拠が重要になります。
刑事:「独身と嘘をついた」だけでは、犯罪になりにくいのが実情です
独身と偽って交際する行為そのものを処罰する規定はありません。詐欺罪(刑法246条)は財産的な被害を前提としますので、嘘だけで金銭のやり取りがなければ、成立しないのが原則です。
では、2023年7月施行の不同意性交等罪(刑法177条)はどうでしょうか。同罪が挙げる8つの類型に「婚姻状況を偽ること」は含まれておらず、176条3項の「人違い」にも当たらないと解されています。つまり、独身偽装だけで性犯罪として立件するのは、現行法上かなり難しいのです。ここは立法論として議論が続いている領域でもあります。
2 「ロマンス詐欺」──恋愛感情につけ込んで、お金を奪う
警察庁の統計(令和7年確定値)によれば、SNS型ロマンス詐欺の認知件数は5,645件、被害額は546.4億円にのぼり、いずれも前年から大きく増加しました。SNS型投資詐欺と合わせると、認知件数15,168件・被害額1,834.3億円という規模です。既遂1件あたりの平均被害額は1,000万円を超え、被害者層は40代から60代が中心です。
手口には、はっきりした型があります。
マッチングアプリで知り合い、すぐにLINEなど外部のアプリへ誘導される。数週間から数か月かけて丁寧に親密な関係を築く。そのうえで、
- 「一緒に将来のために資産を増やそう」と投資サイトへ誘導する(最初は少額を出金させて信用させます)
- 「送った荷物が税関で止まっている」「関税を立て替えて」と持ちかける
- 海外赴任中の軍人・医師・エンジニアを名乗り、帰国費用や医療費を求める
といった形でお金を要求してきます。
近年とくに増えているのが暗号資産での送金です。令和7年の暗号資産送信型は2,177件・247.7億円と前年の約2.9倍に急増し、実質的に暗号資産で交付された被害が被害総額の約半分を占めるまでになりました。
刑事:詐欺罪(刑法246条1項)が成立し得ます
嘘によって人を錯誤に陥らせ、財産を交付させているのですから、典型的な詐欺罪です。法定刑は10年以下の拘禁刑。
ご自身がネットバンキングで振り込んだ場合でも、「だまされて交付した」以上、246条1項の詐欺罪が成立します。組織的に行われていれば、組織的犯罪処罰法3条1項13号により、1年以上20年以下の拘禁刑まで加重されます。
ただ、犯行グループの拠点が海外にあることも多く、検挙に至らないケースが少なくありません。「刑事告訴すれば必ず捕まってお金が返る」という前提は、残念ながら成り立ちにくいのが現実です。それでも、被害届・告訴の提出は口座凍結や捜査の端緒として重要な意味を持ちますので、諦める必要はまったくありません。
民事・回収:とにかくスピードが命です
法律構成としては、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)や不当利得返還請求(民法703条・704条)が考えられます。ただし相手が特定できない、あるいは振込先が売買された他人名義口座で名義人に資力がない、という壁に突き当たることが多い分野です。
そこで実務上、まず動かすべきは次の手続です。
① 振り込め詐欺救済法による口座凍結と被害回復分配金
正式名称は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」(平成19年法律第133号)。
金融庁も、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺のうち預金口座への振込みが利用されたものは救済の対象になるとしています。警察に被害を申告したうえで振込先の金融機関に連絡すると、口座が凍結され、残っている残高から被害額に応じた分配金の支払いを受けられる可能性があります。
ポイントは、口座に資金が残っている間しか使えないことです。詐欺グループは着金後すぐに引き出しますので、気づいてから数時間の差が結果を分けます。「もしかして」と思った時点で、できるだけ早期に動くことが必要です。
② 相手方の特定
弁護士会照会(弁護士法23条の2)や、判決を得たうえでの預貯金債権に関する情報取得手続(民事執行法207条)により、口座名義人や資産を調べられる場合があります。
③ 暗号資産の場合
国内の暗号資産交換業者を経由していれば、取引履歴の照会や凍結要請の余地があります。一方、海外の交換業者や個人ウォレットへ直接送金してしまった場合、追跡・回収は極めて困難といわざるを得ません。
あわせて気をつけていただきたい「二次被害」
「必ず取り返します」「着手金だけで全額回収」といった調査会社や海外業者にご注意ください。
弁護士でない者が報酬を得て示談交渉や債権回収を行うことは、非弁行為として禁止されています(弁護士法72条)。被害回復をうたう詐欺で、二重に被害に遭われた方のご相談も実際に受けています。
また、意外に思われるかもしれませんが、知らないうちに加害者側に巻き込まれているケースもあります。「あなたの口座に送金するから転送して」と頼まれて応じると、詐欺の幇助やマネー・ローンダリング、口座譲渡(犯罪による収益の移転防止法違反)として、ご自身が捜査対象になりかねません。心当たりのある方こそ、早めにご相談いただきたいと思います。
3 迷われたら、どうか早めにご相談を
最後に、実務上とくに重要なポイントです。
- 証拠の保全:メッセージ、プロフィール画面、写真、振込明細は、削除される前にスクリーンショットや画面を保存、印刷して残してください。
- お金が動いたら、その日のうちに:金融機関への連絡と警察への相談は、早ければ早いほど効果的です。
こうしたご相談は、「こんなことで相談していいのかな」「だまされた自分が悪いのでは」とためらわれる方がとても多い分野です。けれど、悪いのは嘘をついた側です。法的に主張できることがあるのか、逆に請求されるリスクがあるのかは、早い段階で見通しを立てておくほど選択肢が広がります。どうかおひとりで抱え込まず、お気軽にご相談ください。守秘義務のもと、丁寧にお話をうかがいます。
