インターネット上での名誉感情侵害、侮辱

名誉感情とは

名誉感情とは、自分自身の人格的評価について有する主観的な評価のことを指します。

そのため、客観的な社会的評価を下げるものとは異なります。

名誉感情を侵害する表現の例は、「○○は掛け算の7の段もわからない、こいつはバカだ」というようなことを○○さんに対していうようなことを指します。

名誉感情侵害と侮辱罪の違い

もう一度名誉感情というものの定義を振り返っておきますと、自分自身の人格的評価について有する主観的な評価のことを指します。

そのため、民事の名誉感情侵害は、人の人格的評価について有する主観的な評価を否定する表現を行った場合に成立します。

一方、侮辱罪については、刑法231条において、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合に成立するとされています。

この刑法231条の侮辱罪で守ろうとしている価値(保護法益)は、名誉すなわち人が社会から受ける客観的な評価であると考えられています。なお、保護法益は名誉感情であると考える見解も学説上はあります。

「公然と」とは、不特定又は多数人から認識し得る状況のことを指します。

「侮辱」とは、「他人に対する軽蔑の表示」のことを指します。

このように刑法231条は名誉を保護していることから、他に誰も聞いていない状況で、対面で嫌なことを言われて傷ついたことについては、侮辱罪に該当しないことになると解されています。

ただし、公共の場やインターネットで「○○はバカ」などと発言した場合、「公然と」「侮辱」しているため、侮辱罪に該当することになると考えられます。

そのため、いろんな人がいる場所で行われる侮辱については、名誉感情侵害にも、侮辱罪にも当たる一方、対面で言われる侮辱については、名誉感情侵害になる一方、侮辱罪には当たらないという違いがあります。

侮辱罪と名誉毀損罪

侮辱罪も名誉毀損罪も保護しようとしている価値についてはどちらとも人が社会から受ける客観的な評価であることに変わりはないのですが、事実の摘示の有無で区別されています。

また、侮辱罪については、刑法230条の2で規定される真実性の抗弁や、相当性の抗弁を主張することは出来ません。そのため、侮辱の内容が真実であっても、免責されることはありません。

名誉感情侵害によって負う責任

民法709条の不法行為として損害賠償責任を負います。認められる損害賠償金額は、1万円程度から、数百万円くらいのものまであります。ただし、名誉感情侵害だけの事例であれば、数十万円程度認められるものが多いです。

民法723条の原状回復請求については、名誉感情侵害の場合にはすることができないとされています。なぜなら、民法723条の原状回復請求は名誉毀損の場合に認められるものであり、名誉感情侵害の場合には認めることができないと解されているためです。

侮辱罪によって負う責任

刑法231条によれば、侮辱罪が認められた場合、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは、30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料であるとされています。

かつては、侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」とされていたことから、9,900円の科料を認める例が多かったのですが、法改正により、懲役刑まで認められ得ることになりました。

法改正された現在の量刑傾向は不明ですが、多くの場合は、罰金刑や科料となるのだと考えられます。

侮辱罪の法改正による影響

令和4年(2022年)の法改正によって、令和4年7月7日以降に行った侮辱行為については、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは、30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料の法定刑の範囲で処罰されることになります。

この法改正の影響で、

  1. 侮辱罪の教唆、幇助も処罰可能になった
  2. 公訴時効が1年から3年に伸びた
  3. 住所若しくは氏名が明らかでない者以外でも逮捕出来るようになった(刑事訴訟法199条1項但書、217条参照)

という変更があります。

なお、③の点について特に、表現の自由の観点から懸念が示されているため、今後の運用状況については注意しておく必要があります。

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