インターネット上での名誉感情侵害、侮辱

※2025年6月1日より、改正刑法に基づき懲役刑および禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。当ページでは法改正に基づき「拘禁刑」と表記していますが、旧制度や過去の事件に関連する場合は「懲役」「禁錮」の表現も含まれます。

名誉感情とは

名誉感情とは、自分自身の人格的価値について有する主観的な評価のことを指します。

そのため、社会から受ける客観的な評価である「名誉」とは異なります。

名誉感情を侵害する表現の例としては、「○○は掛け算の7の段もわからない、こいつはバカだ」というような発言を○○さんに対して行うことが考えられます。

もっとも、単に本人が不快に感じたり、人格的評価を否定されたと感じたりしただけで、直ちに名誉感情の侵害が成立するわけではありません。表現の内容や態様、当事者間の関係などを踏まえ、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為等によって、名誉感情という人格的利益が侵害された場合に、民事上の不法行為が成立することがあります。

名誉感情侵害と侮辱罪の違い

もう一度名誉感情というものの定義を振り返っておきますと、自分自身の人格的価値について有する主観的な評価のことを指します。

そのため、民事上の名誉感情侵害は、表現の内容や態様などを踏まえ、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為等によって、人が自身の人格的価値について有する主観的な評価を侵害した場合に成立することがあります。

一方、侮辱罪については、刑法231条において、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合に成立するとされています。

この刑法231条の侮辱罪で守ろうとしている価値(保護法益)は、名誉、すなわち人が社会から受ける客観的な評価であると考えられています。なお、侮辱罪の保護法益を名誉感情であると考える見解も学説上存在します。

「公然と」とは、不特定又は多数の人が認識することができる状態をいいます。

「侮辱」とは、一般に「他人に対する軽蔑の表示」をいうとされています。

このように、侮辱罪には「公然と」という要件があることから、他に誰も認識できない状況で、対面で嫌なことを言われて傷ついた場合には、通常、侮辱罪は成立しません。

ただし、特定の者に対して行われた発言であっても、その発言が不特定又は多数の人に伝播する可能性がある場合には、「公然と」の要件を満たすことがあります。そのため、具体的な状況を踏まえて判断する必要があります。

例えば、公共の場やインターネット上で「○○はバカ」などと発言した場合には、不特定又は多数の人がその発言を認識できる状態にあり、かつ、その発言が「侮辱」に該当するのであれば、侮辱罪が成立する可能性があります。

このように、公然と行われた侮辱的な表現については、刑法上の侮辱罪と民法上の名誉感情侵害の双方が問題となる場合があります。一方、他に誰も認識できない状況で対面して侮辱的な発言をされた場合には、民事上の名誉感情侵害が問題となることはあっても、通常、侮辱罪の「公然と」という要件を満たさないため、侮辱罪は成立しません。

侮辱罪と名誉毀損罪

侮辱罪も名誉毀損罪も、保護しようとしている価値(保護法益)は、いずれも人が社会から受ける客観的な評価としての名誉であると考えられています。

両者は、一般に、具体的な事実を摘示したかどうかによって区別されます。すなわち、事実を摘示して人の名誉を毀損した場合には名誉毀損罪が問題となり、事実を摘示せずに人を侮辱した場合には侮辱罪が問題となります。

また、侮辱罪については、刑法230条の2に規定されている、公共の利害に関する事実の真実性等に関する特例は直接適用されません。

そのため、名誉毀損罪については、一定の要件の下で、摘示した事実が真実であることなどを理由として違法性が阻却される場合がありますが、侮辱罪については、単に侮辱的な表現の内容が真実であるというだけで免責されるわけではありません。

もっとも、侮辱的な表現であっても、正当な意見・論評として許容される場合や、正当行為に該当する場合などには、違法性が否定される可能性があります。

名誉感情侵害によって負う責任

名誉感情を侵害した場合には、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがあります。

認められる慰謝料の金額は、表現の内容や程度、表現が行われた回数や期間、公開された範囲、当事者間の関係、被害者が受けた精神的苦痛、謝罪や削除等の有無など、具体的な事情によって大きく異なります。

そのため、一概に損害賠償額を決めることはできませんが、数万円から数十万円程度の慰謝料が認められる事例がある一方、具体的な事情によっては、それを超える金額が認められる場合もあります。

また、民法723条は、他人の名誉を毀損した場合に、被害者の請求により、名誉を回復するのに適当な処分を命じることができる旨を定めています。

もっとも、名誉感情の侵害は、民法723条が対象とする「名誉」の毀損とは異なるため、名誉感情の侵害を理由として、同条に基づく名誉回復のための処分を請求することはできないと解されています。

侮辱罪によって負う責任

刑法231条によれば、現在、侮辱罪が成立した場合の法定刑は、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。

かつては、侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」とされていましたが、2022年(令和4年)の刑法改正により法定刑が引き上げられ、1年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金等が加えられました。

その後、2025年(令和7年)6月1日に懲役と禁錮が廃止され、拘禁刑に一本化されたことから、現在の刑法231条では「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とされています。

改正後の侮辱罪については、罰金刑が科される事例も相当数存在します。一方、個々の事件については、侮辱行為の内容、態様、回数、被害の程度、被害者との関係、反省・謝罪の有無など、具体的な事情を踏まえて刑事処分や量刑が判断されることになります。

侮辱罪の法改正による影響

2022年(令和4年)の法改正によって、2022年(令和4年)7月7日以降に行われた侮辱行為については、改正後の法定刑の範囲で処罰されることになりました。

この法改正によって、主に次のような変更がありました。

  1. 侮辱罪の法定刑が引き上げられたことにより、教唆犯や幇助犯についても処罰することが可能になった
  2. 侮辱罪の公訴時効が1年から3年に延長された
  3. 侮辱罪について、逮捕に関する従来の特別な制限が撤廃された

①については、改正前の侮辱罪は刑法64条の対象となっていたため、侮辱罪について教唆犯や幇助犯を処罰することができませんでした。しかし、法定刑の引上げによって刑法64条の対象から外れたため、現在では侮辱罪についても教唆犯や幇助犯が成立し得ることになりました。

②については、法定刑の引上げに伴い、侮辱罪の公訴時効が1年から3年に延長されました。

③については、改正前には、侮辱罪について逮捕状による逮捕及び現行犯逮捕に関して特別の制限が設けられていましたが、法改正によってこれらの制限が撤廃されました。

もっとも、逮捕に関する制限が撤廃されたからといって、侮辱罪について無条件に逮捕できるようになったわけではありません。逮捕状による逮捕については、犯罪を疑うに足りる相当な理由に加えて逮捕の必要性が必要であり、裁判官による逮捕状の発付も必要となります。

なお、侮辱罪の法定刑の引上げや逮捕に関する制限の撤廃については、表現の自由に対する萎縮効果などを懸念する指摘もあります。そのため、今後の侮辱罪の適用や捜査・逮捕の運用については、引き続き注意しておく必要があります。

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