ネットバンキング不正利用

ネットバンキング不正使用の犯罪の例

ネットバンキング不正使用に関する犯罪というのは、銀行を騙ったSMS等のフィッシングメールを通じて、インターネットバンキング利用者を偽の銀行のログインサイトへ誘導し、インターネットバンキングのIDやパスワード、ワンタイムパスワード等の情報を盗み取り、預金の不正送金を行う犯罪です。

例えば、SMSで、「システム変更のため、IDとパスワードを再登録してください」とのメッセージとURLが送られ、そのメッセージに従って、IDとパスワードを入力したところ、いつの間にか銀行口座から、預金がすべて抜き取られるという被害がこの犯罪の例です。

電子計算機使用詐欺罪

刑法246条の2によれば、「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪に若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して財産上不法の利益を得又は他人にこれを得させた」場合に、電子計算機使用詐欺罪が成立します。

この「虚偽の情報」とは、「電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報」(東京高裁平成5年6月29日判決)を指します。

「不正な指令」については、電子計算機の指令を改変することを指すと考えられています。

このような、ネットバンキングの不正使用を行う場合については、真実はネットバンキングの口座管理者の指示が無いにもかかわらず、第三者の口座に送金する意思表示をしたとの虚偽の情報を与えることによって、その虚偽の電磁的記録をネットバンキング会社の事務処理の用に供し、犯人又は第三者に財産上の不法の利益を与えることから、電子計算機使用詐欺罪に該当すると考えられています。

どのような刑罰が予定されるのか

この犯罪の法定刑としては、刑法246条の2によれば、「10年以下の懲役」が予定されています。

コンピュータを使った犯罪であることや、データの消去が容易であることから、逮捕される可能性もあり、証拠隠滅の防止の観点から、勾留もされると思われます。

また、予想される刑罰の重さとしては、金額次第では、前科前歴がなくとも、実刑になる可能性があります。

被害金額がわずかである場合、前科前歴がなければ、執行猶予となる可能性はあります。

また、示談の可能性についても、インターネットバンキングで不正送金された額を被害金額として、その口座管理者に返還することで示談をすることができる可能性があります。

また、示談が成立した場合、被害金額が小さければ、不起訴になる可能性が高くなります。

また、被害金額が大きくても、実刑になるところを執行猶予付きの有罪判決になる可能性があります。

山口県某町誤送金事件

このような、量刑に関して参考になる裁判例として、山口地裁令和5年2月28日判決があります。

この事件は、山口県のある市町村で、住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金約4600万円が被告人だけに誤送金され、その誤送金された臨時特別給付金をオンラインカジノサービスの掛け金にしたという事件があります。

この事件について被告人は、誤送金された被害金について被害者である市町村に返還していました。そのため、この事件について裁判所は、数千万円の被害がある事件であるにもかかわらず、執行猶予付きの有罪判決にしています。

そのため、被害弁償が済んでいるどうかが重要になります。

インターネットバンキングの不正利用による被害金の回復

(1)損害賠償請求

もちろん、ネットバンキングの不正利用を行い、預金を奪った犯人に対して、損害賠償請求を行うことができるのであれば、理想的な解決になるのだと思います。

しかし、預金を奪った犯人を特定することには困難が伴う上、預金を奪った犯人が特定でき、損害賠償請求を認めることができても、被害回復に十分な金銭を得ることができるとは限りません。

そのため、損害賠償請求をするというのは現実的ではありません。

(2)金融機関による補償

偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律5条1項には、盗難カード等による不正な払戻しがあった場合に、金融機関に対して金額の補填を請求することができると規定されています。

しかし、この法律はあくまで、偽造カードや盗難カードによるATMからの不正な払戻しについて金融機関に補償させることを規定していますので、ネットバンキングの不正利用については補償の対象としていません。

そのため、補償を行うためには何らかの契約が必要なのですが、金融機関は契約書でインターネットバンキングの不正利用に対応することを内容としていますので、この金融機関との契約によって補償が行われるということになります。

三菱UFJの例ですと、

1.ご契約番号等の盗用または不正な振込に気付いたらすみやかに当行に通知していただくこと

2.当行(三菱UFJ銀行)の調査に対し十分な説明を行っていただくこと

3.警察に被害届をご提出または被害のご相談をいただくこと

を前提に、原則として通知があった日から30日前の日以降になされた払出しについて被害補償いたします。

ということが契約内容になっています。

そのため、インターネットバンキングでの不正利用があった場合、この規定に従って、対応してもらうことになります。

ただし、30日以内でなければならないこと、本人に過失があることなどの事情を考慮して、補償金額を算定することから、全額戻ってこないということもあります。

(3)金融機関による補償の問題

このように補償されることから、過失があるか、いくら補償するかということについて金融機関の自主的な判断に委ねられてしまいます。そのため、根拠もなく十分な補償を与えなかったり、根拠もなく補償を与えなかったりする場合もあります。

その場合には、契約に基づく債務の履行を求めて、裁判を提起する必要があります。

(4)現状の解決策

現状としては、この金融機関の自主的なルールによって解決されていますので、インターネットバンキングでの不正利用を発見したら、速やかに預金口座のある金融機関に連絡を取り、補償を求めるのが良いと考えられます。

また、不正利用が行われたことについて速やかに発見する必要があることから、預金口座の送金状況や預金口座の残高については、定期的に確認しておくとよいと考えられます。

補償額が少ない、不当に支払われなかったという場合には、弁護士に相談し、しかるべき対応を取るよう金融機関と交渉をすることになります。

keyboard_arrow_up

0359890996 問い合わせバナー LINE予約はこちら