プライバシー侵害
プライバシー権というのは、伝統的に、「私生活をみだりに公開されないという法的保証ないし権利」として理解されています。
そのため、私的な事項について勝手に公表された場合にプライバシー権侵害になります。私的な事項というのは、その人の家の中の様子や、日々の生活状況、個人的な興味関心、個人的な信条などのことを指すと考えられています。
また、プライバシー侵害に当たる行為としては、私的な事柄について明らかにするということだけでなく、のぞきもこのプライバシー侵害に当たる行為であると考えられています。
個人情報とプライバシー
氏名、生年月日などの個人情報、個人識別情報については、誰でもしりうる性質のあり、私的な事項の公開ではないため、上記のプライバシー権の定義に当てはまらないということで、プライバシー権に含めて考えるのかが問題となっています。
この、氏名、生年月日の公開が問題になった例として、最高裁平成15年9月12日判決(早稲田大学江沢民講演会事件)があります。
この事件は、早稲田大学で開催された江沢民の講演会に出席した学生の名簿(学籍番号、氏名、住所および電話番号の書かれたもの)を早稲田大学が警視庁に提出したため、学生らが原告となって、プライバシー権侵害を理由として、早稲田大学(被告)を訴えた事件です。
この事件について、最高裁は、この参加希望者名簿について、名簿に書かれた情報について、「個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。」と判断しました。
しかし、「このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきであるから、本件個人情報は、X(原告)らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。」と判断しました。
この事件から、氏名、住所、電話番号についてもプライバシーに係る情報として保護されるべきと判断されているのですが、プライバシー権侵害ではないという点について注意が必要です。
この個人情報がプライバシーに係る情報ということは、近年のベネッセの事件(最高裁平成29年10月23日判決判時2351号7頁)でも承認されており、企業の個人情報の漏洩についても、プライバシーに係る利益の侵害ということが認められています。
つまり、個人情報の公開であっても、故意の情報漏洩や、合理的な理由のない個人情報の提供については、プライバシーに係る利益の侵害として、損害賠償責任を負うことになります。
損害賠償請求はいくらくらい認められるのか
私的な事項を公開するというプライバシー権侵害については、500万円を超える例はほとんどないのですが、数百万円から、数十万円程度認められています。
一方、個人情報の公開というプライバシーに係る利益の侵害については、多くて数万円から数千円が損害として認められています。この個人情報の公開について悪質な場面は、インターネットでの住所の公開などです。
また、早稲田大学江沢民講演会事件では、1人当たり5,000円の損害賠償を認めているのですが、1人当たりこの金額ですので、数百人が講演会に参加したと考えられるこの事件で、早稲田大学が支払うことになった損害賠償額は数百万円に上ったと考えられます。
企業の情報漏洩に関しては、情報を漏らすと数万人に被害が及ぶので、損害額も膨大になり得るといえそうです。
プライバシー侵害と差し止め
プライバシー権侵害を理由に公表の差し止めを行うことはできます。
ただし裁判例によれば、重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあることが必要であるようです。