※2025年6月1日より、改正刑法に基づき懲役刑および禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。当ページでは法改正に基づき「拘禁刑」と表記していますが、旧制度や過去の事件に関連する場合は「懲役」「禁錮」の表現も含まれます。
性的姿態等撮影罪とは何か
性的姿態等撮影罪とは、いわゆる盗撮など、一定の方法によって人の性的な姿態を撮影する行為を処罰する犯罪です。2023年7月13日に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」に規定されています。
性的姿態等撮影罪では、正当な理由がないのに、ひそかに、人の性的な部位や、性的な部位を覆っている下着、性交等が行われている際の人の姿態などを撮影する行為が処罰対象となります。
もっとも、人が通常衣服を着ている場所で、不特定又は多数の人の目に触れることを認識しながら自ら露出している性的な部位等については、撮影罪の対象となる「対象性的姿態等」から除外されています。したがって、通常の公衆の面前で露出している姿を撮影したことだけで、直ちに性的姿態等撮影罪が成立するわけではありません。
また、本人の同意がある撮影であれば、常に性的姿態等撮影罪が成立するわけではありません。ただし、同意があったように見えても、欺罔などによって撮影を承諾させた場合や、同意を拒むことが困難な状態に乗じて撮影した場合などは、処罰対象となることがあります。
成人向け映像の撮影についても、撮影者と被撮影者との関係や撮影に至った経緯、同意の有無などによって判断されるため、「成人向けビデオの撮影だから常に処罰対象外」とすることは適切ではありません。
都道府県の迷惑防止条例による取り締まり
性的姿態等撮影罪が制定された現在でも、都道府県の迷惑防止条例による盗撮の規制がなくなったわけではありません。
東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(東京都迷惑防止条例)5条1項2号では、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為として、一定の場所において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影することや、撮影目的でカメラ等を差し向けたり設置したりすることを禁止しています。
この規定は、性的姿態等撮影罪の対象となる行為と重なる部分がありますが、両者は構成要件が同一ではありません。性的姿態等撮影罪では対象となる「性的姿態等」や撮影方法などが法律上定められている一方、迷惑防止条例では、条例が定める場所や行為などを基準として処罰対象が定められています。
また、東京都迷惑防止条例5条1項3号では、前2号に掲げるもののほか、公共の場所又は公共の乗物において「卑わいな言動」をすることも禁止されています。
最高裁判所は、平成20年11月10日決定において、ショッピングセンターで女性の後を約5分間付けねらい、1~3メートルほどの距離からズボンを着用した女性の臀部を約11回撮影した行為について、北海道の迷惑防止条例にいう「卑わいな言動」に当たると判断しました。
この判例では、単に臀部を撮影したというだけではなく、女性を約5分間追跡し、近距離から繰り返し撮影したという行為の態様などが重視されています。そのため、衣服の上から撮影した行為が、どのような場合でも「卑わいな言動」に当たると判断されたものではありません。
量刑について
性的姿態等撮影罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金です。また、撮影罪の未遂も処罰対象とされています。
東京都迷惑防止条例では、5条1項2号に違反して実際に撮影した場合、原則として1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています。また、常習として同項の違反行為をした場合には、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金となります。
ただし、盗撮事件の処分や量刑は、前科・前歴だけで決まるものではありません。撮影した内容や回数、被害者の人数、犯行態様、常習性、画像の保存・拡散の有無、被害者との示談の成立など、さまざまな事情を考慮して判断されます。
そのため、「初犯なら必ず罰金になる」「同種前科があれば執行猶予付きの拘禁刑になる可能性が高い」などと一律に説明することはできません。
損害賠償額について
盗撮によって被害者の人格的利益やプライバシーが侵害された場合には、刑事責任とは別に、慰謝料などの損害賠償責任を負うことがあります。
盗撮についての民事裁判例は多くありませんが、東京地方裁判所令和2年1月29日判決では、風俗店の接客従業者に対する性的サービス中の盗撮について、慰謝料として50万円が認められています。もっとも、この金額は、盗撮された内容や撮影時間、発覚後の事情など個別の事情を踏まえて判断されたものです。
したがって、この裁判例をもって「性行為を盗撮すると50万円の慰謝料が認められる」と一般化することはできません。スカートの中の撮影など、別の態様の盗撮について認められる損害賠償額も、具体的な事情によって異なります。
示談の額
盗撮事件の示談金について、一律の相場があるわけではありません。
被害者との示談では、慰謝料だけでなく、謝罪、撮影データの削除、データを第三者に提供・拡散しないことなどが問題となる場合があります。
示談金の額は、撮影した内容や回数、被害者の人数、撮影データの拡散の有無、被害者の処罰感情などによって大きく異なります。そのため、「40万円や50万円が相場」と断定するのではなく、個別の事件ごとに判断する必要があります。
盗撮を防止する方法
盗撮を防止するため、駅や商業施設などでは、防犯カメラの設置や注意喚起など、さまざまな対策が行われています。
また、周囲の状況を確認できる鏡などを設置することによって、スカートの中を撮影する目的で不自然な位置にカメラを向ける行為などに気付きやすくすることも、盗撮防止策の一つと考えられます。
もっとも、特定の設備について「盗撮を防止する効果がある」と一般化するためには、その効果を裏付ける資料が必要です。そのため、記事では「盗撮防止策の一例」として紹介する程度にとどめるのが適切です。
