「つながらない権利」とはなにか
勤務時間外や休日に、仕事上のメールや電話への対応を拒否する権利のことを指します。海外の労働法制では、法律上この権利が明文で定められているということがあるようです。
このような「つながらない権利」が提唱されるに至ったのは、携帯電話やインターネットの発達によって報告などのために、わざわざ帰社しなくてもメールで報告を済ませることができるようになる一方で、帰宅途中でメールが入ったり、その対応のために会社や顧客から呼び出されたりするなど、仕事量の増加につながったため、勤務時間外については、つながらない権利が必要となると考えられるに至ったためです。
日本でつながらない権利は認められているのか
日本の労働関係の法律を見ても、つながらない権利について明文で認める法律はありません。
労働基準法36条1項からして、労働時間外に連絡する、労働時間外でも連絡に対応しなければならないとなると、その対応する時間は労働時間となるため、36協定が必要になります。36協定が無い場合、労働時間外の電話対応やメール対応については、労働者の側で拒否することができるというのが原則であると考えられます。
そのため、つながらない権利というのは法律上承認されていないけれども事実上存在していると考えられます。
雇用契約で、つながらない権利を否定することは出来るのか
これについては、時間外労働に対応するよう雇用契約で定めることと同様に、勤務時間外の電話対応やメール対応について雇用契約で定めることは出来ると考えられます。
ただし、このような契約を定めた場合、労働者が勤務時間外に電話対応やメール対応をしたことを理由として、賃金請求を行う可能性があります。
また、時間外労働に従事させることになるのであるから、労働基準法36条1項に基づく労働者との間の協定が必要になる場合があります。
勤務時間外に電話対応することや、メール対応した時間は労働時間に含まれるのか
労働時間に該当すると言えるためには、最高裁平成12年3月9日判決によれば、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であると言えなければならず、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」と判断されています。
また、厚生労働省の公開している『テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン』によれば、「労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」と明記されています。
そのため、会社外でメール対応する時間というのは、明示の指示により労働者が業務に従事する時間ということができ、労働時間に該当すると考えられます。
そのため、毎日のように夜12時にメールが会社から送られ、このメールに対応しなければならないという状態にあるとそのメール対応時間は労働時間ということになり、残業代としての割増賃金、深夜割増賃金などが発生することになります。
時間外のメール対応について労働者はどう対応するか、使用者はどう対応するか
時間外のメール対応について労働者としては、対応しないとの意思表示をしておく、あるいは、時間外メールへの対応時間を記録しておき、未払い賃金請求ということで、あとで使用者を訴えることが考えられます。
一方、使用者としては、時間外のメール対応によって残業代がかさむということであれば、時間外のメールを送らない、対応の必要のない連絡メールだけにとどめておくという対応を取ることが考えられます。