学歴いじりは犯罪になる?名誉毀損・侮辱罪とネット上の法的責任を解説

名誉棄損

何があったのか

2026年8月、学歴をテーマにした人気YouTubeチャンネルが、ある地方国立大学のキャンパスを訪ねた動画を公開しました。その大学を「国公立最下位」と紹介したうえで学生さんにインタビューをする内容で、学生が放射能研究について当地ならではと語ったのに対し、出演者が、この大学には「触らせたくない」と発言したことが、SNSで大きな批判を呼びました。

9月、大学は学長名で「本学を取り上げたインターネット動画について」と題する声明を公表しました。声明では震災後に環境放射能研究所を設けるなど復興と地域課題に取り組んできた経緯にふれたうえで、「こうした教育・研究活動に真摯に取り組んでいる学生・教職員が、尊厳を傷つけられることがあってはならない」と述べています。出演者は同日Xで謝罪し、動画は削除されました。

大学側は法的措置に言及していませんが、法律的に問題はないのか、気になった方も多いのではないでしょうか。法律面について検討してみましょう。

刑事責任について

まず、名誉毀損罪侮辱罪が考えられます。

名誉毀損罪(刑法230条1項) は、公然と「事実を摘示」して人の社会的評価を下げたときに成立し、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(2025年6月1日施行の改正で、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されました)。

侮辱罪(刑法231条) は、具体的な事実を示さなくても、公然と人を侮辱すれば成立します。ネット中傷の深刻化を受けて2022年7月7日に厳罰化され、いまは1年以下の拘禁刑・30万円以下の罰金なども選べるようになり、公訴時効も1年から3年に延びました。

簡単に言いますと、「○○という不正をしている」というような具体的事実の指摘は名誉毀損、「バカ大学」といった評価そのものは侮辱、というイメージです。
ただし名誉毀損には刑法230条の2の免責規定があり、公共の利害に関する事実を、公益目的で、真実だと証明できれば処罰されません。

いちばん高い壁は「誰に向けたのか」

ここが実務上の最大のポイントです。

名誉毀損罪侮辱罪も、守っているのは特定の人や法人の名誉です。「○○大の学生はバカ」のように、対象が数千人規模の集団に向けられた表現だと、特定の学生の社会的評価が下がったとは言いにくく、犯罪の成立はかなり難しくなります。
逆に、大学法人そのものの評価を落とす具体的な内容であれば、大学が被害者になり得ます。また、インタビューに答えた学生さんのように画面に映っている個人が対象なら、話は変わってきます。

民事責任について

刑事法上犯罪とならなくても、民事上、不法行為(民法709条)として、損害賠償の請求ができる場合はあります。
大きく分けると、社会的評価を下げる「名誉毀損型」と、プライドを傷つける「名誉感情侵害型」があります。

名誉感情侵害型」について、最高裁は社会通念上許される限度を超える侮辱行為といえて初めて不法行為になる、という基準を示しています(最判平成22年4月13日)。単なる悪口では足りず、表現の強さ・回数・経緯などが総合的に見られます。
意見や論評の形をとっていても、公共性・公益目的・前提事実の真実性があり、かつ「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱しない」ことが必要とされています(最判平成9年9月9日)。
つまり、人格攻撃や差別表現については、免責の枠から外れるということです。今回のケースが議論を呼んでいるのも、まさにこの「学歴ネタから被災地への揶揄、差別へ踏み越えたのでは」という点でした。

炎上に「加わる側」も他人事ではありません

大学は声明の中で、「特定の個人に対する誹謗中傷や不適切な言動を行うことのないよう」と呼びかけました。仮に批判する側の言い分が正しくても、書き込みが度を超えれば、今度は投稿したご本人が侮辱罪損害賠償の対象になり得ます。2025年4月1日施行の情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)により、削除や発信者の特定の手続も整備されています。

気になったら、どうぞお早めにご相談を

「うちの子が名指しで書かれている」「勢いで書き込んでしまった」——どちらの側でも、初動が結果を大きく左右します。
書かれた側はURL・スクリーンショット・日時の保存を(アクセスログは数か月で消えることが多く、時間との勝負です)。書いてしまった側は、早めの削除・謝罪・示談が処分を軽くする方向に働きます。

当事務所は刑事事件を中心に、被害を受けた方のご相談も、書き込んでしまった方の弁護も承っております。「これって法律問題になるのかな」という段階で構いません。ひとりで抱え込まず、お気軽にご相談ください。

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