
ある日、契約しているプロバイダ(インターネット接続会社や携帯電話会社)から、見慣れない封筒が届く。開けてみると「発信者情報開示に係る意見照会書」と書かれている――。
SNSや掲示板への書き込みをめぐって、このような書類を受け取ることは、珍しくなくなっています。「身に覚えがある」という方も、「家族の誰かが書いたのかもしれない」という方も、まずは落ち着いてください。この書類が届いた段階では、まだ何も決まっていません。ただし、ここでの対応がその後を大きく左右します。
「意見照会書」とは何か
ネット上の投稿で名誉やプライバシーを傷つけられたと考える人は、投稿者が誰なのかを特定するため、プロバイダなどに契約者の氏名や住所の開示を求めることができます。これが「発信者情報開示請求」です。根拠は、かつて「プロバイダ責任制限法」と呼ばれ、2025年4月に名前が変わった「情報流通プラットフォーム対処法」です。
ただし、請求があればすぐに開示されるわけではありません。開示が認められるのは、投稿によって権利が侵害されたことが「明らか」で、開示を受ける正当な理由がある場合に限られます。そしてプロバイダは、開示するかどうかを判断する前に、原則として投稿者側の意見を聞かなければなりません。そのために送られてくるのが意見照会書です。
つまり意見照会書は、「あなたの言い分を聞かせてください」という機会のお知らせです。
やってはいけない3つのこと
①無視する
回答しなくても、手続きは止まりません。プロバイダや裁判所は、投稿者の言い分がないまま判断することになり、反論できたはずの事情が考慮されないおそれがあります。
②慌てて投稿やアカウントを消す
削除しても、相手はすでに画面を保存しているのが通常です。消すこと自体が悪いわけではありませんが、自分の側の記録まで失うと、反論の材料もなくなります。消す前に、投稿の内容と前後のやりとりを保存してください。
③相手に直接連絡する
謝りたい気持ちからでも、DMなどで直接連絡すると、かえってこじれたり、不利な発言を残してしまったりすることがあります。
一般的な対応の流れ
- 回答期限を確認する。期限は受け取ってから2週間程度とされていることが多く、思いのほか短いものです。間に合いそうになければ、プロバイダに延長を相談します。
- 問題とされている投稿を確かめる。どの投稿が、誰の、どんな権利を侵害したと言われているのかを読み取ります。自分に覚えがなければ、同じ回線を使う家族や同居人にも確認します。
- 開示に同意するかどうかを決める。同意すれば、氏名や住所が相手に伝わります。同意しない場合は、その理由を書きます。
- 回答書を作り、期限内に返送する。
いちばん難しいのが3です。たとえば、書いた内容が事実であり社会的に意味のある指摘だった、単なる感想や論評の範囲だった、そもそも相手を指した投稿ではない――といった事情があれば、開示が認められない可能性があります。その場合は、理由を具体的に書き、裏づけとなる資料を添えることが重要です。「同意しません」とだけ書いて理由を添えなければ、言い分が判断に反映されにくくなります。
反対に、反論が難しい投稿であれば、争い続けるよりも早めに謝罪と話し合いに進むほうが、結果として負担が軽くなることもあります。どちらが得策かは、投稿の中身次第です。
開示された後に起こること
開示が認められると、相手から慰謝料や調査にかかった費用の支払いを求める書面が届いたり、裁判を起こされたりするのが一般的です。
さらに、民事だけで終わらないこともあります。投稿の内容によっては、名誉毀損罪や侮辱罪、デマでお店や会社の信用を傷つけた場合の信用毀損罪・業務妨害罪にあたるとして、警察に告訴される可能性があります。侮辱罪は2022年に刑が重くなり、「軽い悪口のつもりだった」では済まない時代になりました。
この段階では、相手との示談(話し合いによる解決)が成立するかどうかが、民事・刑事の両面で大きな意味を持ちます。
届いたら、期限が来る前にご相談ください
意見照会書への回答は、ご自身で書くこともできます。けれども、「この投稿は法的に問題になるのか」「争うべきか、認めて話し合うべきか」の見極めは、専門的な判断が必要なところです。最初の回答で書いた内容は、後の手続きでも資料として扱われることがあるため、入口での対応が大切です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件を中心に、投稿した側・された側の双方からご相談をお受けしています。回答書の作成から、開示後の示談交渉、万一告訴された場合の刑事弁護まで、一貫して対応できます。
回答期限は待ってくれません。封筒が届いたら、書類一式をお手元に、できるだけ早くご連絡ください。
