
2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、ご覧になられたでしょうか。
侍ジャパンは1次ラウンドをプール首位で通過しながら、準々決勝でベネズエラに5対8で敗れ、ベスト8で大会を去ることになりました。連覇を期待していたファンの方ほど、悔しさは大きかったと思います。
ただ、こうした大舞台での敗退の後に増えてしまうのが、SNSでの選手や監督に対する心ない投稿です。一生懸命応援していたからこそ、やはり悔しい。しかし、結果が出なかったときに、つい出てしまうその言葉が、選手やご家族にとって「暴力」となってしまうことも、私たちは忘れてはいけないと思うのです。
AIが「悪意」を見つけ出す時代に
そんな中、注目したい動きがあります。NPB(日本野球機構)と日本プロ野球選手会等が、WBC日本代表の選手・監督・コーチを対象に、SNS投稿を監視するAI誹謗中傷検出システムを導入すると発表したのです。
使われているのは英国シグニファイ・グループの「Threat Matrix」というサービスで、選手の愛称や略称、ネットスラングまでAIが検知し、SNS運営元への削除要請に加え、発信者情報開示請求や刑事手続きに必要な証拠保全まで行います。FIFAワールドカップカタール2022やラグビーワールドカップフランス2023でも採用された実績のあるシステムだそうです。
ちなみに、2025年のクライマックスシリーズと日本シリーズの期間中、選手やご家族への誹謗中傷が、同様のシステムにより466件確認されたとのこと。
大きな影響力のあるインフルエンサーに限らず、一般の方のちょっとした投稿も、AIにキャッチされてしまう時代なのかもしれません。
「ちょっと書いただけ」では済まない法的責任
もし、実際に誹謗中傷をしてしまうと、どのような責任が生じるのでしょうか。
刑事責任としては、事実を示して人の社会的評価を低下させる投稿は名誉毀損罪(刑法230条)に問われる可能性があります。
「事実」について、本当のことなのだから、問題ないだろうという方もいらっしゃいます。しかし、「事実」について虚偽の場合はもちろん、本当のことであっても、名誉毀損罪は成立しうるので、注意が必要です。名誉毀損罪が成立する場合、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
事実を示すことなく、人の社会的評価を低下させる侮辱的表現は侮辱罪(刑法231条)に問われる可能性があります。令和4年の法改正で侮辱罪の法定刑が重くなり、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金等となりました。
民事責任としては、慰謝料を中心とした損害賠償請求(民法709条)が考えられます。
発信者の特定についても、2025年4月から施行されている「情報流通プラットフォーム対処法」により、大規模SNS事業者には削除対応の迅速化が義務付けられるなど、被害者救済の仕組みが整いつつあります。
おわりに
「応援しているからこそ、つい厳しい言葉が出てしまう」──そんなお気持ちも、わかります。けれど、その一言が誰かを深く傷つけ、いつかご自身の人生やお仕事をも揺るがしてしまうかもしれません。
応援の言葉を「励まし」に変えるか、「凶器」にしてしまうかは、わたしたち一人ひとり次第です。
誹謗中傷の被害でお困りの方、ご自身の過去の投稿に不安を感じている方は、どうぞお気軽に弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
