
「短時間で高収入」「即日即金」「ホワイト案件」。SNSに並ぶこうした言葉は、いわゆる闇バイト、つまり犯罪の実行役の募集であることが少なくありません。
そして近年、その募集に対して捜査員自身が「応募者」として接触するという捜査手法が実際に行われています。警察が「雇われたふり作戦」と呼ぶ手法で、その際に架空の運転免許証などの書類(仮装身分表示文書等)を使うものを「仮装身分捜査」といいます。
警察庁は2025年(令和7年)1月に「仮装身分捜査実施要領」を策定し、全国の警察本部長に通達しました。対象となるのは、インターネット等を通じて実行者の募集が行われていると認められる強盗・詐欺・窃盗・電子計算機使用詐欺などです。他の方法では犯人を検挙し犯行を抑止することが困難と認められる場合に、相当と認められる限度で実施するものとされ、警視総監または道府県警察本部長の指揮の下、あらかじめ承認を受けた実施計画書に基づいて行われます。
すでに実績も公表されています。警察庁の資料によれば、令和7年中に13件の仮装身分捜査が実施され、強盗予備で1件2名、詐欺未遂で3件3名が検挙されたほか、これらを含む7件の被害の発生が抑止されました。
「まだ何もしていない」段階でも検挙されます
ここで注目していただきたいのは、検挙された罪名が強盗予備や詐欺未遂である点です。つまり、現実に誰かからお金を奪う前、被害が発生する前の段階で身柄を確保されているということです。
「応募しただけ」「指示に従って現場に向かっただけ」でも、犯罪の成立が問題になります。また、取調べや裁判では「犯罪だとは知らなかった」と説明しても、信用されるとは限りません。高額な報酬、匿名性の高いアプリへの誘導、身分証の提出といった事情から、「犯罪かもしれないと分かっていた(未必の故意があった)」と認定されることも少なくありません。
弁護人の目から見ると、争点は残されています
一方で、この捜査手法には法律家の間で議論もあります。
いわゆるおとり捜査について、最高裁は平成16年7月12日の決定で、「少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは摘発が困難な場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に行うことは、刑事訴訟法197条1項に基づく任意捜査として許容される」という枠組みを示しました。
裏を返せば、被害者が存在する強盗や詐欺についてはこの判示が正面から扱った場面ではありません。また、対象者にもともと犯行の意思があった(機会提供型)のか、捜査側の働きかけによって犯意が生じた(犯意誘発型)のかによって、評価は大きく変わり得ます。
さらに、仮装身分捜査は現在のところ法律ではなく警察庁の通達(実施要領)に基づく運用であり、国会でも質問主意書が提出されるなど、その法的な位置づけが議論されている段階です。
つまり、闇バイトに関わった経緯や捜査の経緯によっては手続の適法性を争うことも検討の余地があります。捜査記録を精査し、誰とどのようなやり取りがあったのかを丁寧に確認することが、弁護活動の出発点になります。
すでに関わってしまった方へ
身分証を送ってしまい、「家族に危害を加える」などと脅されて抜け出せない、という事例は決して珍しくありません。警察庁は、闇バイトから抜け出そうとする方やご家族を保護する方針を明確にしており、闇バイト応募者を保護した件数は2025年11月末時点で544件にのぼり、その8割超が10代から30代の若い世代でした。
脅されている状況でも、道は残されています。早い段階でご相談いただければ、警察への相談・自首の付添い、被害者の方への被害弁償や示談、身柄拘束を避けるための活動など、取り得る手段があります。
被害に遭われた方へ
特殊詐欺や強盗の被害に遭われた場合、実行役として現れた人物は、多くの場合「使い捨て」にされた末端です。それでも、被害回復のためには刑事手続への適切な関与(告訴、被害届、被害者参加、損害賠償命令の申立てなど)が重要になります。示談の申入れがあったときに、どう応じるべきか迷われる方も多くいらっしゃいます。
闇バイトに関与してしまい、被疑者となってしまった方、被害に遭われてしまった方、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を広く取り扱っております。
初回相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
