
2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生し、気象庁はこの一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と命名しました。
地震の発生後、SNSでは大量の偽情報が流れました。報道や専門機関の検証によって確認されているだけでも、次のようなものがあります。
・商業施設の爆発を映したように見える、生成AIで作られた偽動画
・過去の震災(2024年の能登半島地震など)の映像を、今回の映像として転用したもの
・「阿蘇山が噴火した」「寝台列車が脱線した」といった、事業者が否定した情報
・実在しない住所を書いた偽の救助要請と、QRコードやPayPayでの送金要求
偽情報に対して、総務省は28日に公式Xから科学的根拠のない真偽不明の情報が流通するおそれがあると注意喚起を行いました。29日にはGoogle・LINEヤフー・Meta・X・TikTokの主要5社に対して、利用規約等を踏まえた適切な対応を要請しています。
内閣官房長官も記者会見で、悪質な虚偽情報の流布は決して許されないと述べました。
とりわけ深刻なのが、偽の救助要請です。28日夜には「生き埋めになっています」という投稿が30万回以上閲覧されましたが、記載された住所は実際には存在しないものでした。文面や住所がほぼ同じで名前だけを変えた投稿が、複数のアカウントから発信されていたことも確認されています。
分析企業は、この手口を消防や警察の救助リソースを消耗させる影響の大きい行為だと指摘しています。助かるはずだった人のもとに、救助が届かなくなる。デマの怖さは、ここにあります。
法的責任は?
それでは、偽情報、デマの投稿や拡散は、法的にはどのような罪に問われるのでしょうか
① 偽計業務妨害罪(刑法233条)
嘘の情報を流して他人の業務を妨げた場合に成立し、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。
実際に2016年の熊本地震の直後、「地震のせいで動物園からライオンが放たれた」と画像付きで投稿した男性が、同年7月、偽計業務妨害の疑いで逮捕されました。熊本市動植物園に100件以上の問い合わせが殺到し、職員が本来の点検業務を行えなくなりました。男性は動機について「見た人を驚かせたかった」と説明していたと報じられています。
この件について、2017年3月に熊本地検は起訴猶予(不起訴)としましたが、逮捕され、報道され、長期間捜査対象となった事実はなかったことにはできません。「悪ふざけだった」ではすまない問題になります。
② 名誉毀損罪(刑法230条)
特定の個人や団体について「〇〇が火をつけた」などと事実無根の投稿をすれば、名誉毀損罪(刑法230条)にあたり得ます。
今回も、根拠のない加害者像を名指しする投稿が確認されています。
③ 詐欺罪(刑法246条)
被災者や支援者を装い、実際は被害に遭っていなかったり、支援をする意思がないのに、募金や送金を求めたりする行為は、詐欺罪(刑法246条)にあたり得ます。
国民生活センターや警察も、義援金詐欺や住宅修理をうたう便乗商法への注意を呼びかけています。
④ 民事上の損害賠償
刑事責任とは別に、民事上の損害賠償請求をされることもあります。企業や施設が風評被害を受けた場合、その額は決して小さくありません。
拡散した場合の責任
「拡散しただけ」でも責任は生じます。
大阪高裁令和2年6月23日判決は、コメントを一切付けない単純なリツイート(リポスト)であっても、元の投稿が他人の社会的評価を低下させる内容であり、リツイート(リポスト)した人が、元の投稿を自分のアカウントのフォロワーが閲読可能な状態にするということを認識していれば、原則としてその経緯・意図・目的を問わず不法行為責任を負い得ると判断しました。
「自分が書いたわけではない」「善意で広めただけ」という説明は、必ずしも免罪符にはなりません。
匿名でも同じです。発信者情報開示の手続によって、投稿者は特定され得ます。
迷ったら、拡散しない
専門家が共通して挙げる確認ポイントは、とてもシンプルです。
・投稿の日時を見る(地震の前の投稿が掘り起こされている例が確認されています)
・公的機関の情報と照らす(気象庁、自治体、ライフライン事業者の公式発表)
・確信が持てないときは、拡散しない
最後に
被災された方を思う気持ちから、少しでも情報を届けたいと考えて拡散なさる方がほとんどだと思います。しかし、その優しさが、意図せず誰かの救助を遅らせてしまうかもしれないということは、ネットユーザーとしては心に留めておかなければならないでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、ネット上の投稿によって被害を受けられた方の削除・発信者情報開示・損害賠償のご相談、思わぬ形で捜査の対象となってしまった方のご相談の双方をお受けしています。
「これは大丈夫だろうか」と迷われた時点で、どうぞお早めにご相談ください。
